従来の事業再生計画は、環境変化の激しいVUCA時代において「絵に描いた餅」になりがちです。
その最大の原因は、計画が経営者にとって他人事となり、実行への内発的な動機が生まれないことにあります。
本記事では、この問題を解決し、計画を行動へと転換させるための2つの重要なアプローチ、「センスメイキング(論理的な意味づけ)」と「ナラティブ(自分の物語化)」について解説します。
精緻な計画書作成ではなく、経営者の腹落ちと主体性を引き出す、本質的な事業再生支援の鍵をお伝えします。
目次
VUCA時代を乗り切る事業再生計画:計画から行動への転換術
1. なぜ「事業再生計画」は絵に描いた餅になるのか?VUCA時代の本質
激変する現代(VUCA:変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)において、事業再生は「計画の正確性」よりも「実行のスピードと方向性」に大きく依存します。
従来の事業再生計画が「絵に描いた餅」に終わりがちなのは、経営者自身がそれを他人事(外から与えられた目標)として捉えているからです。この他責思考が、再生を失敗に導く最大の要因となります。
我々の支援の目的は、精緻な計画を作成することではなく、経営者が「自分事」として腹落ちし、最初の一歩を踏み出すための内発的な動機付けを行うことにあります。そのための鍵となるのが、「センスメイキング」と「ナラティブ」です。
2. 計画を行動に変える2つの鍵:「センスメイキング」と「ナラティブ」
事業再生を成功に導くために、当社では以下の2つの要素を通じて、経営者の意識と行動の変革を支援します。

3. 再生を加速させる2つの鍵の具体的な役割
3-1. センスメイキング:混乱した状況に「意味」を与え、論理的な必然性を生む
経営者がやる気を失うのは、「何が起きているか分からない」「何をしても無駄だ」という混乱と無力感からです。
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計画の真の価値は、未来の正確な予測ではなく「地図」である:
再生計画はその真の価値は、現状を論理的に分解し、「なぜ過去の戦略が失敗したのか」「今、最も重要な課題は何か」といった意味づけを与えることにあります。 -
センスメイキングによる論理的な腹落ちを促す:
このプロセスを通じて、経営者は「外部環境のせい」という他責思考から脱却し、次に何をすべきかという論理的な必然性をもって行動指針を決定できます。
3-2. ナラティブ:計画を「自分の物語」にし、内発的な動機を引き出す
論理的な道筋(センスメイキング)が見えても、それが「自分事」にならなければ行動にはつながりません。
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計画を「変革の物語のプロット」に変換する:
我々は、数字と目標の羅列である再生計画を、「困難を乗り越え、会社と自分自身を変革させるストーリー」へと変換します。 -
ナラティブによる主体性の回復:
経営者は、この物語に自身の価値観や信念を織り込むことで、計画を「やらされていること」ではなく、「自分が選び、主導していくべき、自分の物語」として認識します。これが、本気の「一歩」を後押しする内発的なモチベーションとなります。
4. 結論:計画書ではなくプロセスが事業再生の真の役割
事業再生計画の真の役割は、計画書そのものにあるのではなく、作成プロセスを通じて経営者に「センスメイキング」と「ナラティブ」を提供し、最初の一歩を踏み出させることにあります。
計画通りに進まないことを前提としつつも、明確な意味づけと強い動機を得て動き始めた経営者は、環境変化に応じて計画を迅速かつ柔軟に修正し、再生へと向かうことができるのです。
この記事を書いた人
山口亨(中小企業診断士) UTAGE総研株式会社 代表取締役
公的支援機関を中心に、長年にわたり中小企業支援に携わる経営コンサルタント。
代表著作に「ガンダムに学ぶ経営学」「ドラクエができれば経営がわかる」がある。








